制御(Control)とは,対象を自分の思い通りに操る技術のことで,我々は無意識のうちに制御を駆使して生きている.言い方を変えると,制御なしでは何者も生きていくことはできない.プロセス制御(Process Control)とは,石油,化学,鉄鋼などのいわゆるプロセス産業におけるプロセス(生産設備)の制御のことであり,その中でも特に,石油や化学プロセスを対象とする制御を化学プロセス制御と呼ぶ.要するに,工場を自分の思い通りに動かして,素晴らしい製品を生産し,最大の利益を上げるための技術がプロセス制御である.
一般に,工業プロセスは多種多様な装置から構成される極めて複雑なものである.例えば,化学プロセスは,反応器,熱交換器,蒸留塔,ポンプなど,目的の異なる数多くの装置から構成される.このような複雑な工業プロセスの運転に際しては,以下のような要求を満たすことが求められる.
これらの要求を満たすためには,工業プロセスの運転状態を継続的に監視し,最適な運転状態を維持するために必要な操作を適宜行う必要がある.プロセス制御とは,各種の測定装置や調節弁,さらにはコンピュータを利用して,この必要な操作を行うことである.
最適な運転条件が決まっているのであれば,その条件で運転すれば良いだけであるからプロセス制御は必要ないと感じるかもしれない.しかし,原料の特性,冷却水や加熱蒸気などのユーティリティの特性,外気温などの外部環境,触媒活性などが変化すれば,プロセス制御なしに仕様を満たす製品を生産し続けることはできない.したがって,外部環境などの変化(外乱)が対象プロセスに与える影響を軽減することが必要になる.これがプロセス制御に期待される第1の役割である.これを外乱抑制と呼ぶ.
また,最適な運転を実現するためには,温度や流量などを指定された値(設定値)まで速やかに変化させたり,プロセスの状態を指定されたプロファイルに従って変化させなければならない.このような要望に応えることがプロセス制御に期待される第2の役割であり,これを設定値追従と呼ぶ.
プロセス制御はどのように実現されるのか.一般に,制御したい変数の値(制御量)を測定し,その測定値と設定値との差(偏差)を計算し,その偏差に基づいて操作する変数の値(操作量)を適切に決定する.このような制御をフィードバック制御(Feedback Control)あるいは閉ループ制御という.フィードバック制御によって,外乱抑制と設定値追従を同時に実現できる.一方,外乱を測定できるのであれば,外乱の影響を打ち消すような操作量を,プロセスのモデルに基づいて計算することもできる.このような制御をフィードフォワード制御(Feedforward Control)あるいは開ループ制御という.外乱の大きさと制御対象の動作が正確に把握できる場合にはフィードフォワード制御が有効である.しかし,フィードフォワード制御では制御結果(偏差)に基づく操作量の修正が行われないため,すべての外乱が正確に測定でき,かつモデルが正確でなければ,制御量が設定値からずれてしまう.このため,現実にはフィードフォワード制御のみを利用するのではなく,フィードフォワード制御とフィードバック制御を併用する場合が多い.
フィードバック制御が利用されているのは何も工業プロセスにおいてだけではない.例えば,自転車に乗っていて,下り坂で速度が出すぎないようにブレーキをかけるのもフィードバック制御である.ブレーキをかけるのは人間であるから,このような制御を手動制御と呼ぶ.一方,室内の温度を一定に保ちたい場合,一度エアコンの電源を入れてしまえば,人間が何も操作しなくても機械が自動的に室温を調節してくれる.このように,制御装置によって自動的に行われる制御を自動制御という.